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武藤力

txt.赤田りんたろう
(ミリオン出版「GON!」1999年5月号
コラム。その後、ツルツルになり全日で省エネプロレスを。
相変わらず猥褻な彼氏)

 諸君は「武藤力」(むとうちから)を知っているだろうか?化石燃料の枯渇の心配、原子力の危険性、ありとあらゆるエネルギー問題を解決する糸口として、今もっとも注目を集めている夢幻のパワーだ。今日は「武藤力」の正しい知識と可能性について一緒に勉強してみよう。
 私の中で何度目かのムトウブームが起こっている。ムトウ、とは踊るマハラジャではない。セクシャル・ターザンこと新日本プロレスの武藤敬司だ。現在このセクシャル・ターザンという呼び名が使われることはもうほとんど無い。しかし、スペース・ローンウルフや、ナチュラル・ボーン・マスターよりも武藤にピッタリだと思うのは私だけだろうか。なにしろ武藤の表情、身体、しぐさはどれを取ってもセクシーというよりはハラスメントなほどセクシャルなのだから。
 例えば花道に立ったとき。まず武藤は眩しそうに会場を見渡す。そしておもむろに露出狂がコートを開くようにガウンをつまみ、腰に巻いたチャンピオンベルトを誇示する。それから顔をソッポ向けたまま両腕を開き、瞬発的に膝と肘で反動をつけるようにして全身を揺さぶる。顔の表情は下唇を突き出し恍惚としている。卑猥なことこの上ない様子だ。人によっては思わず目をそらす場面だろう。
 ところでなぜ武藤は強いのか。言うまでもなくそれは「武藤力」(むとうちから)があるためだ。マサさんが「ドン・フライにはレスリング力(ぢから)がありますからネ」と言っていたが、同じように武藤にも「武藤力」がある。武藤のしぐさで特徴的なのは、何かを掴みかけているような(夢?それとも愛?)あの妙な手つきだ。これは花道で見得を切るときも、グランドの展開になって相手の腕を取っているときも同じである。この微妙に曲げられた指先から、夢パワー・「武藤力」が出ているのだ。「武藤力」はチャクラとは反対に頭頂部から発し、腰部及び四肢の末端に向かってラセン形に伝達される。従って「武藤力」を使用した技は全て回転力に変換され爆発的な威力を発揮するのだ。
 ここで「武藤力」の存在を証明するために、必ず関連づけて語られるのが、武藤の頭頂部の毛髪の問題である。アレこそは頭頂部から溢れ出る「武藤力」の発現であり、毛根こそが「武藤力」の源である証拠なのだ。そこに触れられると急に冷たい表情でキラーっぽくなるのは武藤が怒っているからではなく、毛根を強制的に消耗することでターボがかけられ、爆発的な「武藤力」が出るからだ。
 これらの事実から言えることは、武藤は大きなパワーを手に入れるために「闘魂伝承」の道より「毛根減少」を選んだ、ということだ。ありがとう武藤敬司、ありがとうプロレスの神様。
 ただ最近の黒い武藤は「武藤力」をやや抑える傾向にあるようで残念でならない。あのウルフパックとかいう手つきは、指をつまんでいるため「武藤力」の抑止になるようである。もっと「武藤力」を見たい、と思うのは同感である。が、ファンなら理解しなければならない。毛根を源とする「武藤力」は限り有るみんなの大切な資源だということを。一人一人が明日の武藤を考える、それが明るく豊かな未来につながるのだ。


●武藤力アレコレ
・武藤を引きずり起こすときは後ろ髪を掴むもしくは手を頭に添えるだけが約束だ。みんなもきまりは守ろうね。

・「武藤力」は人を優しくさせる。それはカメラマンにすら影響を及ぼす。武藤をとらえるTVカメラのフレームはなぜか頭頂部を外す。心の教育が求められている今だからこそ「武藤力」の平和利用を真剣に考える時期が来たのではないだろうか。

・「武藤力」が働いている瞬間、武藤の指先からは余剰分の「武藤力」が放射され、時にはバックファイアの如く弾けて全身から噴き出す。それがハラスメントなほどセクシャルなパフォーマンスのように見えるのだ。アレは不可抗力、武藤はあくまでもストロングスタイルというわけだ。

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