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ヨコシマな散歩4

txt.赤田りんたろう
(レゾナンス「Tokyo Jammin'」2000年11月号
オシャレ雑誌で堤幸彦監督と並んで連載してたコラム。
毎回渋谷をテーマにしている)

 デート。嬉しくもハズかしい、甘酸っぱい響き。そう、デート!
 それは男女二人がお互いを深く知り合うイヴェント。ああ、デート! 若さとは力!(マイティ)若さとは罪!(ギルティ)
 みなさん、胸キュンなデート、してますか?
「それじゃあ、映画を観に行こうよ」
 そんなことで、たいがい女性を初めてデートに誘うときは、なけなしの勇気をふりしぼってそういうようなことを言っているようです、わたしの場合。
 さてココで、楽しいデートの前に「何を観に行くのか?」という大問題が横たわっているのあります。これはかなりナーバスな問題。
 ここは間違えても、思いっきり自分の趣味に走って、新宿昭和館でやってる『仁義なき戦い 総集編』なんかを提案してはいけない。
 ハハハ、高校時代のオレのバーカバーカ!(ふとんに入って電気を消してから急に思いだして、のたうちまわりながら)。
 あと、まだつきあい始めてもいないのに『タイタニック』みたいなラブロマンスを、
「ね、ね、イイらしいよ、タイタニック。まじ。泣くって、まじで。一緒に泣こうよ」
 などと下心丸出しで提案するのもどうかと思います。というか、わたしが女だったら、そんな男は大笑いしながらブン殴ってやろうと思います。
 普段は池袋と新宿でしか遊ばないのに、映画、というとなぜか渋谷というシチュエーションが多くなる。理由は多分、ミニシアターでやっている映画や単館上映の映画を観る頻度が高いから。
「ゴダールの『男と女のいる舗道』、渋谷のミニシアターでレイトショーやるんだって。観たことある?」
「ない。どこでやるの? シネパレス?」
「え? いや、どこだったかな?」
「シネアミューズじゃない?」
「いや、違うなあ」
「シネセゾン? シネクイント?」
「うーん…」
 自分が好意を抱く相手から、シネ、シネ、と何度も言われると気分が落ち込んでしまうのはわたしだけだろうか。とにかく渋谷にはシネなんとかという名前のミニシアターがたくさんある。
 今年初春に初めて出会ったその女のコは、わたしよりもたくさん映画を観ていて、センスがいい(と本人が言っていた)コだった。
「キミもセンス磨かなくっちゃね!」
 と年上のわたしをキミ呼ばわりして彼女は笑う。そのカワイイ笑顔をみて、わたしはセンスを磨こうと決心したのだ(でも、どうやって?)。
 あの日、珍しく彼女に誘われて、オシャレ関係の方々に非常に評判の良い、とある映画を渋谷で観ることになった。ソレは、長いクセにヤマもなければオチもない、平凡で退屈な映画だった。ところが映画館を出て開口一番、彼女はこう言ったね。
「すごい才能だよね、あのカントク。(不快なので大幅に中略)あのオチには、やられたあ! ってカンジ」
 まるで先週聴いたFMでDJが言っていた感想をそのまんま喋ってるような、雑誌の映画評を孫引きしたようなセリフ。
 わたしは返事をしないで黙ってしまった。アレを面白いと言わないとマズイ雰囲気が充満している。何か言わなければ。
「ダヨネー」
 とか言えばいいのだろうか。
 しかし、彼女はわたしの態度から何かを敏感に感じとり、その結果なぜか彼女のプライドは著しく傷き、無言でぷりぷりと怒りだしてしまった。
 ロジックではなくセンスなのだからタチが悪いですね。
 ご機嫌を損ねた彼女に、
「アタシ、用があるから」
 と言われて別れたわたしは、その後一人で牛丼を食べていた。紅ショウガを口いっぱいにボリボリ噛んでいたらなんだか急にムカムカと腹が立ってきたので、電話で高校時代の後輩を渋谷まで呼び出し、別の映画につきあわせた。
 渋谷の単館上映館にはミニシアター以外に、東映作品を単館ロードショーする渋谷東映という映画館がある。そのときの映画はズバリ『新・男樹』または『OTOKOGI』。
「グダグダの○○○しやがって!」
 という名台詞が冴える本宮ひろ志のマンガが原作の映画。普段なら絶対に観ようと思わないのだが、この時のわたしの気分にはピッタリだった。
「男ならぶッとい樹を立てろ!」
 現代日本の物語だというのに、ド汚ねえ学ランのバンカラが集いに集ったり10万人!(本当は20人くらい。しかも全員学生じゃないのになぜか学ラン)別に面白くもなかったけど妙にスッキリした。
 見終ってから、ムリヤリ呼び出した行きがかり上、後輩に「面白かったな!」と言わなければならない自分がいることを発見した。
 その晩、後輩を部屋に泊めることになり、ネマキを貸してやった。
 フと、後輩のスネ毛の濃さが目に入った。
 そこで初めて、「なんであの時、てきとうに彼女に話を合わせなかったのだろう?」と、わたしは深く後悔した。

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